高槻駅から大阪駅へ向かう快速電車。乗車時間は約15分。
抱っこ紐の中ですっかり夢の世界にいると思っていた千景の目が、見下ろすと、なぜかパッチリと開いていた。そして、不穏な空気を漂わせるように「ふげっ、ふげげっ」と小さなぐずり声を上げ始める。
私は慌てて座席から立ち上がり、揺れる車内でトントンと背中を叩いてあやし始めた。
すると、「エルゴのここ、もう少し長くしたほうがいいよ」と、突然横から声が降ってきた。
見れば、額に汗をにじませた、50代前半くらいの元気そうなおばちゃんが立っていた。彼女は言葉をかけるとほぼ同時に、手際よく私の抱っこ紐の紐をスッと親切に調整してくれたのだ。
SNSの世界なら「他人が勝手に触るなんて」と非難の的になりそうな場面だが、現実世界で差し伸べられるその手には、ただ純粋なお節介と優しさだけが詰まっていた。
「私も孫がおってね、今ちょうど8ヶ月やねん〜」
おばちゃんは目を細め、千景の顔を何度も覗き込んでは「かわいいねぇ、ほんまにかわいい」と相好を崩した。そこからは、お孫さんの子育てエピソードを色々と楽しそうに語ってくれ、「これからもっと暑くなるから、エルゴのここのポケットに保冷剤を入れたらいいよー」と、実用的な先輩のアドバイスまで授けてくれた。
時間にしておよそ10分ほどの出来事。けれど、ふがふがと不機嫌になりかけていた千景の意識がおばちゃんの声や笑顔に向いてくれたおかげで、私にとっては本当にありがたい、救いの時間だった。
「今は大変な時やけど、頑張ってねぇ」
新大阪駅に到着すると、おばちゃんはそんな温かいエールを残して、颯爽と電車を降りていった。
やはり現実世界は、見ず知らずの母子に対して想像以上に優しい。そう温かな気持ちで大阪駅に降り立った私だったが——その余裕は、目的地である眼科で呆気なく打ち砕かれることになる。
到着してしばらくは大人しかったものの、視力検査が終わったあたりから、千景のぐずりが本格化してきたのだ。そしていざ、お医者さんの診察室に入る頃には、鼓膜を震わせるほどの見事なギャン泣き状態に。
静かな診察室に響き渡る全力の泣き声に、「本当にすみません……!」と平謝りしながら、私は文字通り冷や汗(いや、本格的なあせちゃびん)をかきつつ診察を乗り切った。
眼科を出るやいなや、私たちが駆け込んだのは阪神百貨店の授乳室だ。
息をつく暇もなく胸に抱き寄せ、おっぱいを含ませると、千景はようやく嘘のようにピタリと泣き止み、安心したように喉を鳴らし始めた。
その必死な飲みっぷりを呆れ半分、愛しさ半分で見下ろしながら、私はふっと息を吐き出してつぶやいた。
「……いつもは外面いい千景ちゃんやのに、今日は一体どこいってしまったんや?」
人の優しさに触れ、我が子の泣き声に焦り、逃げ込むように授乳室へ駆け込む。思い通りにいかないドタバタな外出も、かけがえのない日常の1ページとして積み重なっていく。
- りょうやICL後の1週間検診。からの友人とのカフェに行くまこもつ。おつかれ
- まこICLの術後は良好でちた。